青森地方裁判所 昭和28年(行)37号 判決
原告 塚本恭一 外三名
被告 青森県知事
一、主 文
被告が昭和二十三年七月二日附を以て別紙図面表示中(ほ)の部分につき、青森県北津軽郡武田村大字豊岡字若松六十九番の二号として長利多一郎に売渡した処分は無効であることを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
第一、請求の趣旨
原告等訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、被告指定代理人は「原告等の請求はこれを棄却する。訴訟費用は原告等の連帯負担とする。」との判決を求めた。
第二、原告等の主張
一、武田村農業委員会は昭和二十三年六月四日、青森県北津軽郡武田村大字豊岡字若松六十九番の一号、田一町三反十一歩(別紙図面中青色部分)につき不在地主(同郡中里町居住)古川政孝の所有に属する小作地として旧自作農創設特別措置法(以下単に自創法と略称する。)に基いて買収計画を定め、同時に右農地中別紙図面中(い)の部分につき売渡人を石川三次郎、(ろ)の部分につき山本正雄、(は)の部分について石川三次郎、(に)の部分につき米塚利助として売渡計画を定め、右計画はいずれも異議訴願の申立なく確定した。
二、しかるに被告は昭和二十三年七月二日前記計画に基き売渡通知書の交付によつて売渡をなすに当り、なんら前記計画に定められていない原告所有にかゝる主文掲記の字若松六十九番の二号田二反九畝十六歩(別紙図面表示中赤色(ほ)の部分)を前記古川政孝所有の字若松六十九番の一号地中(は)(に)の部分に該当するものと誤認し、これを当該農地の耕作者たる長利多一郎に売渡し(その所有権移転登記に際しては地番を字若松六十九番の四号と表示した。)前記農地売渡計画に定められた(は)(に)の部分についてはこれを売渡処分から除外したものである。
三、前記原告等所有にかゝる字若松六十九番の二号地は数十年前から長利多一郎に賃貸して今日に及んでいるところ、前述のとおり右田地についてはなんら自創法に基く買収並に売渡計画がなかつたものであるから被告のなした前記売渡処分は無効という他なく、よつてこれが無効確認を求めるため本訴に及んだ。
第三、被告の主張
一、原告等主張事実のうち、武田村農業委員会がその主張日時にその主張する字若松六十九番の一号、田一町三反十一歩について不在地主古川政孝の所有に属する小作地として、買収計画を定めたこと、並に被告が耕作者たる石川三次郎、山本正雄、長利多一郎の三名に各々その耕作部分たる別紙図面表示中(い)(ろ)(ほ)の部分を売渡し、いずれも異議訴願の申立がなかつたことは認める。
二、しかしながら係争地である右(ほ)の部分が原告等の所有に属するものであること並に前項記載以外の主張事実はいずれも否認する。
すなわち、本件農地買収並に売渡計画の対象となつた前記古川政孝所有にかゝる字若松六十九番の一号、田一町三反十一歩は別紙図面表示中(い)(ろ)及び赤色表示(ほ)の部分であり、(は)(に)の部分は含まれていない。従つて右赤色表示(ほ)の部分について永年耕作し今日に至つた長利多一郎に売渡した被告の売渡処分は適法且正当であつて、原告等主張のような違法はなく、原告等の本訴請求は棄却を免れない。
第四、証拠<省略>
三、理 由
一、武田村農業委員会が昭和二十三年六月四日附を以て青森県北津軽郡武田村大字豊岡字若松六十九番の一号、田一町三反十一歩について不在地主古川政孝の所有に属する小作地として、農地買収計画を定めたこと、被告が昭和二十三年七月二日別紙図面赤色表示(ほ)の部分について長利多一郎に売渡したこと及びこれに対しいずれも異議訴願の申立がなかつたこと、並に字若松六十九番の二号なる表示の土地は原告等の所有に属すること(この点は弁論の全趣旨により)は共に当事者間に争いがない。
二、そこで本件の唯一の争点である右赤色表示(ほ)の部分が被告主張の如く古川政孝所有にかゝる同所六十九番の一号に含まれるか又は原告等の所有に属するものであるかについて判断するに、
(一) 青森地方法務局金木出張所備付土地台帳附属図面を検証した結果によれば前記(ほ)の部分は字若松六十四番の四として表示されており、右は同所六十四番の一号から分筆せられた結果であるが、その分筆前の同所六十四番の一号の所在は必ずしも明瞭ではなく、
(二) 証人井沼銀造、同石川三次郎、同米塚利光の各証言によれば(1)同所字若松六十九番の一号の田地はもと米塚某の所有に属し昭和二年頃古川政孝において同人から譲受けたものであるところ、右該当地として現実に引渡を受けたのは前記図面表示中(い)(ろ)(は)(に)の部分であり、(2)該部分の小作人は地主米塚から買受人古川へ引続いて該部分の耕作を継続して新地主たる古川に対し小作料を支払つてきたが、(3)前記(ほ)の部分については米塚、古川間に右のような売買による引渡、小作関係の引継等の事実がなく、却つて(4)被告が字若松六十九番の一号地に含まれないと主張する(は)(に)の部分についても該部分を従来古川政孝から賃借耕作してきた石川三次郎、米塚利光がそれぞれ自創法に基き買受申込の手続をなし、すでにその代金も払込済であること(但し登記済証は未だ交付されておらない)が窺われ、
(三) 他面証人竹谷与三郎同長利多一郎の各証言によれば、(1)前記(ほ)の部分については長利多一郎が先代以来、原告等の先代塚本健三郎より賃借し引続き耕作して今日に及んでおり、同所が原告等の所有に属することはかつて同人等の間になんら疑念の存しなかつたところであり、(2)従つて同人はその小作地(ほ)の部分につき不在地主古川の所有地として自創法に定める買受の申込もしなかつたし、(3)また長利は古川政孝からかつて田畑を賃借小作したことなく、従つて(ほ)の部分が近在においては長利の小作地でありその地主が原告等であることに疑念をもつ者がおらないことが認められる。
以上の事実を綜合すると、従前から(い)(ろ)(は)(に)の各部分は古川政孝の所有に属するが(ほ)の部分は原告等の所有にかゝりかつて古川政孝の所有に属したことがないものと認定するを相当とする。前記の如く当該(ほ)の部分が土地台帳附属図面において字若松六十九番の四号と表示せられていることは右認定を妨げるものではないし、その他これを左右するに足りる証拠は何もない。
三、果して然らば訴外武田村農業委員会が前記買収並売渡計画を定むるに際たり専ら土地台帳及びその附属図に頼つた結果、本件係争地につき曾て所有したことのない訴外古川政孝をその所有者と誤り該計画を定めたものと認むるの外なく、そして斯ような重大且明白な瑕疵は当然該計画の無効を招来するものといわなければならない。従つて右計画を適法な処分としてこれに基ずき為した被告の本件売渡処分もまた当然無効と解するの外ない。
よつて原告等の請求は理由があるから、これを認容すべく、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決した。
(裁判官 工藤健作 中田早苗 田倉整)
(図面省略)